ほうれん草は栄養価が高く、さまざまな料理に使われる人気の野菜です。しかし、その栽培には害虫による被害が付きものです。本ブログでは、ほうれん草で特に問題となる主な害虫の紹介や、害虫対策、注目の新しい農薬の効果と特徴、ほうれん草の主要産地での取り組み事例などを詳しく解説します。ほうれん草の安定生産に関心のある方は、ぜひご一読ください。
1. 多発しがちなほうれん草の主な害虫
ほうれん草の栽培にはさまざまな季節ごとの害虫が現れ、被害をもたらす可能性があります。以下では、特に注意が必要な4種類の主な害虫を紹介します。
ホウレンソウケナガコナダニ
ホウレンソウケナガコナダニは、ほうれん草の栽培では最も一般的に見られる害虫です。このダニは土壌や有機物の中で生息し、わらやもみ殻などを食べています。そして、新芽や新しい葉に移動し、ほうれん草の成長に異常を引き起こします。その結果、収量や品質の低下、新しい葉の展開停止などの被害が起こる可能性があります。
アブラムシ類
ほうれん草にも被害を与えるアブラムシ類も存在します。特にモモアカアブラムシがよく見られ、吸汁による被害だけでなく、ウイルス病を媒介することもあります。そのため、アブラムシの早期の防除が重要です。
ネキリムシ類
ネキリムシ類は夜行性の蛾で、ほうれん草の初期の生育時に葉を食べます。春から秋にかけて特に多く発生し、葉を切り取ることで株を損ないます。特にほうれん草の成長初期に被害が多く見られ、早めの防除が重要です。
ミナミキイロアザミウマ
ミナミキイロアザミウマは、アザミウマの一種で、ほうれん草で頻繁に発生します。成虫と幼虫の両方が新しい葉を吸汁し、ほうれん草の品質を損ないます。春から秋にかけて周囲の雑草から侵入し、発生します。そのため、周辺の雑草を取り除いたり、農薬を散布したりすることが効果的です。
ほうれん草の栽培では、これらの害虫による被害が多く発生する傾向があるため、常に観察を行い、早期に対策を講じることが重要です。次のセクションでは、ホウレンソウケナガコナダニに対する具体的な防除対策について解説します。
2. ホウレンソウケナガコナダニの生態と被害
ホウレンソウケナガコナダニは、ほうれん草の施設栽培や有機質資材を活用した栽培で被害が多く見られる害虫です。この節では、ホウレンソウケナガコナダニの生態と被害について詳しく解説します。
2.1 ホウレンソウケナガコナダニの生態
ホウレンソウケナガコナダニは、北海道から本州、九州まで広く分布しており、さまざまな作物に寄生します。ピーマン、トマト、かぼちゃ、きゅうり、メロン、キャベツ、ニンジン、とうもろこしなどがその対象です。しかし、ほうれん草に対しては特に大きな被害をもたらすことが知られています。
この害虫は、元々は土壌中の有機物や糸状菌を食べる有機物分解者として存在し、浅い土壌中に生息しています。特徴的なのは、非常に小さく、透明な乳白色の体色と後胴体部に生えた長い毛です。ホウレンソウケナガコナダニの生育期間は短く、卵から成虫までの期間を1シーズンに何度も経験します。
2.2 ホウレンソウケナガコナダニの被害
ホウレンソウケナガコナダニは、主にほうれん草の新芽部分に被害を与えます。この害虫による食害により、葉に小さな突起や穴が生じ、周囲が褐変します。さらに、被害を受けた葉は展開すると縮れた奇形となり、光沢があります。被害が多いと新芽が黒変し、成長が阻害されたり、幼芽が食害されて発芽できなくなることもあります。
これらの被害により、ほうれん草の商品価値が低下し、収量も減少するおそれがあります。ホウレンソウケナガコナダニは農薬に対して抵抗性を持ちやすいため、防除が難しい害虫として知られています。
3. ホウレンソウケナガコナダニ防除の3つの対策
ホウレンソウケナガコナダニを効果的に防除するためには、以下の3つの対策が重要です。
3.1. 播種前の土壌消毒
ホウレンソウケナガコナダニは高温に弱いため、熱による土壌消毒が有効です。このため、以下の方法が利用されます。
- 湯温80℃以上の熱水を1平方メートルあたり150Lで熱水土壌消毒を行います。
- 蒸気消毒や太陽熱消毒、土壌還元消毒も有効です。
また、土壌処理剤を土壌に混入させる方法も有効な防除方法です。有効成分としては、「フォース粒剤」や「バスアミド微粒剤」があります。特に「キルパー」というカーバムナトリウム塩液剤は、藻類の処理とコナダニの密度低減を同時に行うことができると報告されています。
3.2. 本葉2〜4葉期の農薬散布
ホウレンソウケナガコナダニが土壌から株に移動する前の生育期、つまり本葉2〜4葉期に農薬を散布することが重要です。以下の農薬が有効です。
- 「アファーム乳剤（エマメクチン安息香酸塩を含む）」
- 「スミチオン乳剤（MEP乳剤）」
- 「カスケード乳剤（フルフェノクスロン乳剤）」
農薬の散布時には、以下の点に注意する必要があります。
– 散布前に灌水して土壌表面を湿らせます。
– 展着剤を添加することで、農薬が土壌表面や新芽に均等にかかるようにします。
– 異なる有効成分の農薬を使用し、ローテーション散布することで抵抗性の発生を防ぎます。
3.3. 適切な施肥と水管理
ホウレンソウケナガコナダニの被害を防ぐためには、土壌中のコナダニ類の増殖を抑えることが重要です。以下の対策が有効です。
- 未熟な堆肥や油粕、米ぬかなどの施用は避け、コナダニの増殖しにくい有機質資材を使用します。
- 本葉4葉期以降、収穫7日前まで土壌が極端に乾燥しないよう、少量の灌水を行います。
- 発生した場合には、間引き株や収穫残さを丁寧に取り除き、畑から離れた場所で処分します。
これらの対策を組み合わせることで、ホウレンソウケナガコナダニの被害を効果的に防ぐことができます。
4. 注目の薬剤「ネコナカットフロアブル」の効果と特徴
ネコナカットフロアブルは、ほうれん草の栽培時に頻発するケナガコナダニの防除に効果を発揮する注目の薬剤です。以下にその効果と特徴をご紹介します。
効果
- ケナガコナダニやネダニ類の脱皮を阻害する効果があります。
- 他の薬剤では抵抗性が問題になることがありますが、ネコナカットフロアブルは新薬であるため、期待されています。
- ネコナカットフロアブルは他の薬剤との混用が可能であり、効率的な散布が行えます。
- 刺激臭が比較的低く、作業時の快適性も向上します。
特徴
- ネコナカットフロアブルはフロアブル剤であり、500mlの一本を500ℓのタンクに希釈することができます。これにより、作業ミスのリスクを減らし、安全管理にも役立ちます。
- 使用の際は1000倍に希釈されるため、わかりやすく作業が行えます。
- ネコナカットフロアブルは農業経営者である秋葉さんによって試験され、効果が良いと評価されています。
ネコナカットフロアブルは、ほうれん草の栽培においてケナガコナダニの防除に効果を発揮することから、農業生産者にとって重要な資材として注目されています。
5. ほうれん草産地の取り組み事例
ほうれん草産地である栃木県日光市の鶏頂山では積極的な取り組みが行われています。以下に、鶏頂山のほうれん草産地での取り組み事例を紹介します。
5.1 商品開発とブランディングの推進
鶏頂山では、高原ほうれんそうのブランド産地としての地位を確立するために、商品開発とブランディングに重点を置いています。生産者は、高品質な夏ほうれんそうの生産に取り組んでおり、その取り組みが評価されています。また、パッケージもオリジナルで制作され、こだわりが随所に詰められています。
5.2 農業の継続と人材育成
鶏頂山のほうれん草産地では、農業の継続と人材育成にも力を入れています。生産者は、減少傾向にある夏だいこんの栽培にも取り組んでおり、多くの人々が和気あいあいと働く農園として知られています。また、特定技能研修生なども受け入れており、若手農業者の育成にも力を注いでいます。
5.3 害虫対策の研究と技術革新
鶏頂山のほうれん草産地では、害虫対策の研究と技術革新も積極的に行われています。特に、ほうれん草に被害を与えるケナガコナダニについては、長年の悩みの種でしたが、新たな薬剤「ネコナカットフロアブル」の導入により、効果的な防除が可能となりました。このような害虫対策の研究と技術革新により、鶏頂山のほうれん草産地は安定的な生産を実現しています。
以上が、鶏頂山のほうれん草産地で取り組まれている事例です。これらの取り組みは、地域の農業の発展に大きく貢献しており、他の地域にも良い参考となるでしょう。
まとめ
ほうれん草栽培における害虫対策は重要な課題です。播種前の土壌消毒、生育初期の農薬散布、適切な施肥と水管理といった対策を組み合わせることで、ホウレンソウケナガコナダニによる被害を効果的に防ぐことができます。また、注目の薬剤「ネコナカットフロアブル」の登場は大きな福音となっています。さらに、鶏頂山のほうれん草産地では商品開発やブランディング、農業の継続と人材育成、害虫対策の研究と技術革新など、積極的な取り組みが行われており、他の産地にも大きな示唆を与えるでしょう。これらの対策と取り組みを参考にして、ほうれん草産業の持続的な発展につなげていくことが重要だと言えるでしょう。
